デイヴィッド・ホロビン 金沢 泰子
経験的にも納得できる話ではあるわけだが。白痴天才なんて話もあるし、狂人と天才は紙一重なんだわな。
「白痴天才(イディオ・サヴァン)」とは?
彼ら正真正銘の天才とはちと違うが、サヴァン症候群というものがある。強いて和訳すると、「白痴天才」となる。一般的に知能は低いのだが、ある一点についてだけ天才としか思えない才能を発揮する人のことをいう。
うすのろだったが6桁の立方根を暗算できたトム・ファラー、知恵遅れだが西暦3200年までの何月何日が何曜日だかたちどころに答えることのできるジョージとチャールズ、白痴で盲人にもかかわらず一度聞いた曲はどんな難曲でもピアノで最演奏できるトム・ウィギンス、そしてわが国の有名な山下清等があげられる。(「サヴァンな人」より)
レビュー
内容(「MARC」データベースより)
人類が知性を獲得したメカニズムとは? 進化の過程で分裂病が果たしてきた役割とは? 天才を創り出す脳内の神秘と可能性を、大胆に解き明かすサイエンス・ノンフィクション。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ホロビン,デイヴィッド
オックスフォード大学で医学を専攻。ナイロビ初の医学校設立に加わったことでアフリカ考古学への関心を深め、人類の進化と精神分裂病をめぐる研究に取り組む。英国分裂病協会医療顧問。30年にわたり医学界をリードしてきた専門誌『Medical Hypothesis』創刊エディターでもあり、バイオテクノロジーの会社経営にも携わる。500を超える科学論文がある。スコットランド在住
歴史を性格にさかのぼるには限界があるので、「サイエンス・ノンフィクション」というには想像で補う部分が多く、まとまりがなくなっている(ペンが走りすぎ)感もあるのだけど。それでもサイエンス物としてもミステリーものとしてもとてもおもしろい本でした。
現在では「統合失調症」と呼ばれる分裂病。本人の意図とは関係なく、妄想や幻聴の現れる大変な病気。精神病としての重篤さからも、世間的なものの見方からも、ご本人達は大変な生活を送っておられます。しかし、この本は「そんな人々に現在の人間が支えられているのだ」という光を、分裂病に与えてくれます。彼らは変異体であり、複数の遺伝子の組み合わせが合うと発症する。遺伝子の組み合わせ如何で誰でも分裂病になる可能性があり、また、その組み合わせが異なれば、飛躍的な天才になることもある。その組み合わせが判明すれば、自分がどの程度の分裂病気質を持っているか、子孫に影響するかもわかる…。
今、分裂病の治療方法として注目されるのが、「脂肪」。DHAも重要と言います(最近読んでいる『海馬−脳は疲れない−』では、人間は十分なDHAを体内に持っているというのだけどね)。進化の過程を追っていくと、人間は猿に比べてとても脂肪が多く、それが人間を特徴づける要素の一つとなっているそう。逆に言えば、「何故人間は脂肪が多いのか?」を追うと、何かの謎が解けるってことだね。脳味噌は基本的に脂肪で出来ているし、人の知性の源は脂肪である、と。
さらにこの本、ダーウィンの進化論にも意義を唱えていて、わたしはこちらに賛成しちゃうなぁ。ダーウィンのは、環境要因に影響されて自然淘汰された中で生き残ったのが現在の生物、ということになっているけど、自然淘汰されるには、いろいろな変異体がもともと存在してるっていう前提が必要でしょう? っていう考え方。変異は、環境に依存せずに、勝手に起こる。
原始の異なる種類の人間同士が食い合いをしていたという考え方も、脂質が必要だった人間の祖先の主食が昆虫だったというのも、さらに効率的に脂質を摂取するために骨を割って脊髄を取り出して食べていたというのも、「動物としての野生の人間」を想像したことがなかったわたしには大変おもしろい考えでした。
それにしても残念なのは、「歴史は正しくはどうあったのか」を、どうがんばっても検証できないこと。この本をこのまま「想像力豊かなサイエンスミステリー」にしておくのはもったいないなぁ。信憑性は高いように思いますが。